
1. はじめに:ビザンティン美術とは?
ビザンティン美術は、東ローマ帝国(ビザンティン帝国、330年~1453年)の文化のもとで発展した美術様式のことを指します。初期キリスト教美術を継承しつつ、宗教的象徴性や豪華な装飾、独特の表現技法を発展させたのが特徴です。
この美術は、ローマ美術の影響を受けながらも、写実性よりも象徴性や精神性を重視し、特にモザイクやイコン(聖像画)に代表される独自のスタイルを確立しました。また、帝国の拡大とともに、ギリシャ・ローマ・中東・スラブなどの多様な文化要素を取り入れ、正教会(東方正教会)の宗教美術の基盤となりました。
2. ビザンティン美術の発展段階
ビザンティン美術は、おおまかに以下の3つの時期に分類されます。
(1) 初期ビザンティン美術(4世紀~8世紀)

この時期は、コンスタンティヌス大帝によるビザンティウム(後のコンスタンティノープル)の建設(330年)から始まり、8世紀の聖像破壊運動(イコノクラスム)までの期間にあたります。
特徴
- ローマ美術や初期キリスト教美術の影響を強く受けた様式。
- モザイク装飾が盛んに用いられる。
- 宗教的なモチーフ(キリスト、聖母マリア、聖人、天使)が中心。
- 建築では、ローマのバシリカ式を基にしながらも、中央集権的な円蓋式(ドーム)を採用。
代表的な建築・美術作品
- ハギア・ソフィア大聖堂(イスタンブール、537年完成)
- ユスティニアヌス1世の命で建設された巨大な聖堂。
- 巨大なドームとモザイク装飾が特徴。
- ラヴェンナのサン・ヴィターレ聖堂(6世紀)
- ユスティニアヌス1世と皇妃テオドラの壮麗なモザイクが有名。
(2) 中期ビザンティン美術(9世紀~12世紀)

この時期は、8世紀後半からの聖像崇拝復活後に、美術が再び活発になった時代です。
特徴
- イコン(聖像画)の制作が復活し、精巧な聖母子像やキリスト像が多く描かれる。
- 建築はギリシャ十字式(中央にドームを持つ)を採用。
- 装飾には金箔や宝石を多用し、豪華な美術表現が発展。
代表的な作品
- イコン「ハギオス・オスティオスのキリスト像」(シナイ山の聖カタリナ修道院)
- 厳かな表情と金の背景が特徴。
- ダフニ修道院(ギリシャ、11世紀)
- 精巧なモザイク装飾が施された教会。
(3) 後期ビザンティン美術(13世紀~15世紀)
ビザンティン帝国は、1204年の第4回十字軍によるコンスタンティノープル占領(ラテン帝国の成立)を経て、一時的に衰退しました。しかし、1261年にパレオロゴス王朝が復興し、美術も再び発展しました。
特徴
- より柔らかく、感情豊かな人物表現。
- 鮮やかな色彩と流れるような線の描写。
- 建築は小規模化し、装飾が精緻になる。
代表的な作品
- キオス島のネア・モニ修道院のモザイク(11世紀)
- 豪華な装飾が施されたビザンティン後期の代表作。
- コンスタンティノープルの聖使徒教会(現在は消失)
- かつてはビザンティン美術の傑作が並んでいた。
3. ビザンティン美術の特徴
(1) モザイク装飾

ビザンティン美術の最も代表的な技法の一つはモザイクです。金箔を使ったガラス片(テッセラ)を敷き詰め、聖堂の壁や天井を装飾しました。
- 例:ハギア・ソフィア大聖堂、ラヴェンナのサン・ヴィターレ聖堂
(2) イコン(聖像画)
イコンとは、木の板に描かれた宗教画で、特にギリシャ正教会やロシア正教会で重要視されました。イコンは単なる絵画ではなく、信仰の対象として崇拝されました。
- 例:「ハギオス・オスティオスのキリスト像」
(3) 建築

ビザンティン建築の特徴として、円蓋(ドーム)と集中式プランが挙げられます。特に、ハギア・ソフィアの巨大ドームは、後のイスラム建築にも影響を与えました。
4. ビザンティン美術の影響
ビザンティン美術は、西ヨーロッパ、中東、ロシアなどに大きな影響を与えました。
(1) 西ヨーロッパ
- ロマネスク美術・ゴシック美術に影響を与えた。
- ビザンティン様式のモザイクがイタリア(ヴェネツィアなど)で発展。
(2) イスラム美術
- ビザンティン建築の影響を受け、イスラムのモスク建築(例:オスマン帝国のブルーモスク)が誕生。
(3) ロシア正教会

- ビザンティン美術のイコン様式が、ロシア正教会の美術として発展(例:アンドレイ・ルブリョフのイコン)。
5. まとめ
ビザンティン美術は、初期キリスト教美術を継承しつつ、独自の象徴性や宗教的表現を発展させました。モザイク、イコン、壮麗な建築など、精神的な深みと装飾の豪華さが特徴です。その影響は広範囲に及び、後のヨーロッパ、イスラム圏、ロシア美術に大きな影響を与えました。
特に、ハギア・ソフィア大聖堂の建築とモザイク装飾、イコン画の発展は、今日の美術にも深い影響を与え続けています。
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